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セールス(営業)ファネルとは?パーチェスファネルやマーケティングファネルとの違いとその構造をわかりやすく解説

営業活動の最適化を考える上で、よく使われるのがセールスファネル。その考え方はシンプルで、集客で多くの潜在顧客を集め、興味関心から比較検討へとステージを進めるにつれてリードの数は減り、最終的にごく少数のリードが顧客化するというもの。

しかし、顧客の購買行動や接点が多様化した現代においては、必ずしもセールスファネルが最適なモデルとは言えないのが現状であり、安直にセールスファネルを導入しても、期待した成果にはつながりません。

本記事では、セールスファネルの特徴やマーケティングファネルとの違い、構成要素、導入するメリット・デメリットを解説します。ぜひ本記事を参考に、適切な方法でセールスファネルを活用いただければと思います。

セールス(営業)ファネルとは

そもそもファネルとは、認知から購買に至るまでの顧客行動の流れを図式化したものです。

一般的なマーケティング/セールス施策では、多くの潜在顧客を集客し、興味関心から比較検討、購買へと進むにつれてリードの数は少なくなり、最終的に購買に至るのはごくわずか。これを正確に図式化すると、上部が広く、下部に進むにつれて幅が狭まります。この形状が漏斗(ろうと:funnel)に似ていることから、「ファネル」と呼ばれるようになりました。

ファネルにも種類があり、本記事で見ていくセールスファネルとは、営業担当が顧客と接触した瞬間から優良顧客になるまでの過程を図式化したものです。詳しくは後述しますが、基本的にはリードクオリフィケーション・意思決定・クロージングの3つのステージで構成されます。ただし、すべての企業のセールスファネルが3つのステージで構成されるわけではありません。自社ビジネスモデルや業界、顧客行動などに合わせてセールスファネルの調整をしましょう。

考え方と発展の背景

セールスファネルはビジネスの種類によってさまざまな段階がありますが、一般的には「AIDA」モデルに従います。AIDAとは、広告とセールスのパイオニアであるSt Elmo Lewis(セント・エルモ・ルイス)がセールスの仕組みを説明するために開発したモデルであり、Awareness(認知)・Interest(関心)・Desire(欲求)・Action(行動)の4ステージで顧客行動を説明します。

  • 認知:顧客がブランドや製品サービスを認識する
  • 興味:顧客は情報収集をし、製品サービスへの興味関心を高める
  • 欲望:顧客は製品がほしくなる、あるいは必要になる
  • 行動:体験版のダウンロード、アカウントの作成、Eメールの購読、購入などの行動を起こす

1924年にウィリアム・W・タウンセンドがAIDAモデルをファネル状にしたことで、セールスファネルが誕生します。AIDAモデルには100年以上の歴史があり、現在でも使用されることが多いです。ただし、新たなメディアの誕生や消費者行動の変化に伴い、AIDAモデルの考え方や構成要素も発展しました。

インターネットが普及していない時代、BtoBにおける主な情報源は展示会や専門雑誌、営業担当者などでした。しかし、現代の顧客はWebサイトやSNS、メルマガなどの複数チャネルを用いて能動的に情報収集できるようになったのです。商材単価が高く、複数の意思決定者が関与するBtoBにおいては、顧客が認知した瞬間に購入するケースはほぼありません。

Miller Heiman Gによれば、BtoB購入担当者の70%以上が営業担当者と接触する前にニーズや課題を把握し、約半数が接触する前に具体的なソリューションを特定しているとのこと。この顧客行動を踏まえると、セールスファネルに入る前に、適切なナーチャリングをできるかどうかが顧客化のカギを握るといえます。

セールス(営業)ファネルと一般的なファネルとの違い

異なる角度からセールスファネルの理解を深めるために、ここからはパーチェスファネルとマーケティングファネルとの違いを解説します。

パーチェスファネルとの違い

パーチェスファネルとは、認知から購買に至るまでのカスタマージャーニーをファネル化したモデルです。一般的なパーチェスファネルは以下のステージで構成されます。

・認知:ファネルの一番上で集客の役割を担う

・興味関心:顧客は製品やサービスに興味を示し、具体的な情報収集を行う

・比較検討:顧客は選択肢を絞り込み、より詳細な評価をする

・購入:顧客は最終的に購入する

パーチェスファネルは顧客の購買プロセスを全て示しているのに対し、セールスファネルはリードクオリフィケーションからクロージングまでの範囲に焦点を当てているという特徴があります。セールスファネルはパーチェスファネルの一部であり、比較検討と購入ステージをより詳細化したものです。

マーケティングファネルとの違い

マーケティングファネルとは、顧客が自社を認知してから購買に至るまでの流れをファネル化したモデルです。マーケティングファネルは、「TOFU」「MOFU」「BOFU」の3種類で構成されます。

TOFU:課題が具体的ではない潜在顧客がターゲット。ブログ記事やSNSなどを通して、課題や自社の存在に気付いてもらうのが目的

MOFU:課題が明確かつ複数の商品サービスに興味があるリードがターゲット。ホワイトペーパーやLP、ウェビナーなどを通して自社製品を使うメリットや競合優位性を伝える

BOFU:購入を具体的に検討している比較検討段階のリードがターゲット。料金の詳細やカスタマーサポート、導入後の流れなどを伝えて購入の後押しをする

セールスファネルとマーケティングファネルでは、対象とする領域が異なります。マーケティングファネルの場合、自社を認知していない潜在顧客の集客からリード化まで注力するのが一般的なのに対し、セールスファネルではマーケティングから引き継いだリードを顧客化するのに注力します。

(出典:magenest)

セールスファネルとマーケティングファネルの違いは、上図が分かりやすく表現しています。マーケティングファネルはMQL(Marketing Qualified Lead:確度の高いリード)の創出を目的にし、セールスファネルは受け継いだリードにOpportunity(商談)をし、顧客化を目指すことを目的にしているのです。

セールス(営業)ファネルの構造

一般的なセールスファネルは、以下3つのステージで構成されます。

  1. リードクオリフィケーション
  2. 意思決定
  3. クロージング

ここからは、各ステージの詳細を解説します。

(出典:HubSpot)

リードクオリフィケーション

セールスファネルの上部に位置するのが、マーケティングから引き継いだリードの確度や自社製品にふさわしいリードかどうかを判断する「リードクオリフィケーション」です。

リードと一口に言っても、その種類はMQL(マーケティングが確度が高いと判断したリード)やPQL(製品トライアルなどに登録したリード)、不適格リードなどその種類はさまざまあります。

例えば、十分にナーチャリングされていないリードに営業が商談を行っても、成約につながる確率は極めて低いでしょう。その一方、確度の高いリードへのアプローチが遅れると、リードが競合他社に移るリスクが生じます。

リードクオリフィケーションのないアプローチは、暗闇の中でダーツを投げるようなものであり、営業の生産性や商談率低下の原因となるのです。

Business 2 Communityによれば、売上損失の67%が営業担当者がリードクオリフィケーションを実施しなかったことが原因とのこと。リードクオリフィケーションをすることで、購入に前向きなリードにのみアプローチできるため、営業担当者の負荷軽減や成約率の向上を見込めるだけではなく、準備ができていないリードにはナーチャリング施策を推進できます。

意思決定

リードが適格と判断されると、意思決定の段階に入ります。営業担当者は、商談やプレゼンテーション、デモなどを通してリードと関わり、不安や悩みを解決する情報を提供しなければいけません。この段階は、リードの関心と信頼を育むために非常に重要であり、個別化されたコミュニケーションと相手の要件に合ったソリューションを提案しましょう。

クロージング

クロージングとは、リードが製品・サービスの購入を最終決定する段階です。一般的に、条件の交渉や価格についての話し合い、契約内容の最終確認などが行われます。

セールス(営業)ファネルを活用するメリットとデメリット

セールスファネルにはメリットとデメリットがあります。特に、営業とマーケティングの衝突を生み出すことや、すべての企業に有効なモデルではない、というデメリットを理解したうえで、セールスファネルを導入するかどうか決めなければいけません。ここからは、セールスファネルを活用する3つのメリットと4つのデメリットを解説します。

メリット1:効果的なアプローチの実現

セールスファネルの最上部でリードクオリフィケーションを実施することで、営業担当は確度の高いリードに注力できるようになります。Gleanster Researchによれば、営業に引き渡す準備ができているリードは全体の25%しかいないとのこと。

リードクオリフィケーションをしなければ、営業は商談の準備ができていない75%にもアプローチすることになるため、成約率や営業の生産性の低下を招くでしょう。セールスファネルを使用してリードクオリフィケーションすることで、営業部門はコンバージョンの可能性が最も高いリードに優先的に取り組めるため、時間とリソースを節約できます。

メリット2:パーソナライズ化した営業アプローチができる

セールスファネルを使えば、各ステージにおけるリードの課題やニーズを把握できます。また、ファネルの上部でリードの精査をする点も踏まえると、営業は各リードに個別化したアプローチを行えるでしょう。

EPSILONの調査によれば、消費者の80%が「パーソナライズ体験を提供するブランドとビジネスがしたい」と回答。パーソナライズ化した営業アプローチは成約率の向上に貢献すると考えられます。

また、 米McKinsey & Companyによれば、成長スピードの速い企業は遅い企業に比べ、パーソナライゼーションによる収益が40%も高いと判明。

マーケティングファネルとセールスファネルの段階で収集した情報を活用すれば、リードのニーズや好みに合わせてメッセージングや架電、商談などを推進できます。このパーソナライズしたアプローチにより、信頼とエンゲージメントを育み、最終的に成約率や収益率の向上を見込めるでしょう。

メリット3:コンバージョン率の改善

ファネルの代表的な使い方は、各ファネルにおけるコンバージョン率もしくは離脱率を出して、優先度の高い改善点を特定することです。

例えば、意思決定からクロージングまでのコンバージョン率が低ければ、営業の商談に問題がある、もしくは適切なクオリフィケーションができていないなどの課題があると仮定できます。これらの仮説に基づくことで、効率よく課題の改善ができ、コンバージョン率の向上へとつなげられます。

デメリット1:購入後の顧客行動には対応できない

セールスファネルのゴールは、リードの顧客化です。しかし、SNSの発展やSaaSの普及により、既存顧客の維持および既存顧客から新たな収益を生み出す重要性が増しました。

アメリカの大手コンサル会社Bain & Companyの名誉ディレクターであるFred Reichheld(フレッド・ライクヘルド)氏は、5%の顧客維持率の改善は最大25%の収益増加をもたらす「5:25の法則」を提唱しています。これは長期的なブランドの成長のためには、既存顧客の維持とアップセル/クロスセルの推進が重要であることを示唆しています。

また、G2の調査では、BtoB購買担当者の92.4%が「信頼できるレビューを見た後は購買意欲が向上する」と回答。これは顧客の購買後の体験や行動が新規リード創出につながっていることを示しています。

現代では購入後の顧客行動が重要になっていながらも、セールスファネルは購入後の活動ではなく、リードの顧客化に重点を置いているため、セールスファネルのみでは顧客化後の対応はできません。

デメリット2:営業とマーケティング部門が衝突するリスク

従来のファネルにおいては、営業とマーケティングの目標は異なります。マーケティングは主にリード獲得に焦点を当て、営業はリードの顧客化が目標です。この目標のズレは、コンバージョン率の低さをマーケティングが営業のせいにし、不十分または不適格なリードを提供したマーケティングを営業が責めるという、責任のなすり合いにつながる可能性があるのです。

また、IDC Corporateの調査では、BtoB企業が適切なプロセスやテクノロジーを活用して、営業とマーケティングを連携できなければ、年間収益の10%以上を損なうとのこと。目標の共有とコラボレーションの欠如は、営業とマーケティングの対立を生むだけではなく、ビジネスの成長に影響を与える可能性さえあります。

(引用:The Trillion-Dollar Cost of Sales and Marketing Misalignment

デメリット3:カスタマージャーニーの理解が限定的

セールスファネルは、カスタマージャーニーを直線的に表現したもので、BtoBにおける複雑な購買プロセスを単純化しすぎている可能性があります。

実際にMcKinsey & Companyは、BtoBにおいてもコミュニケーション手段や情報収集チャネルが多様化し、多くの意思決定者が関与することから、従来のセールスファネルでは十分に対応しきれないと述べているのです。例えば、意思決定者の一人がふとSNSで自社製品に関するレビューを目にしたことで、突然比較検討段階に入る可能性はあるでしょう。

従来のファネルモデルでは、このような複雑なカスタマージャーニーを適切に捉えられないため、カスタマーの理解が限定的となり、リード創出や商談のチャンスを逃す可能性があります。今後は従来の企業主導のファネルから顧客主導のファネルへのシフトチェンジが求められるでしょう。

デメリット4:全ての企業に有効なわけではない

セールスファネルはすべての企業に有効なモデルではありません。ファネル管理をしていなければ役に立ちますが、デマンドウォーターフォールのように詳細なファネル管理をしている場合は、セールスファネルを使う必要性は少ないでしょう。

また、基本的にセールスファネルはマーケティングからリードを引き継いだ段階で始まりますが、例外もあります。例えば、検索クエリが極端に少ない業界に属していたり、そもそも顧客が検索して情報収集していなかったりする場合、展示会やダイレクトメールなどのアウトバウンドによるリード獲得がセールスファネルの始まりになるため、ファネルの調整が必要です。

セールスファネルはすべての企業に有効なモデルではないため、自社ペルソナの情報収集チャネルを念頭に置きながら、活用するのかどうかの判断をしましょう。

セールス(営業)ファネルを活用するために

セールスファネルが効果を発揮するのは、営業とマーケティング部門が1つのチームとして活動するときです。マーケティング部門が魅力的なコンテンツを通して十分にナーチャリングした確度の高いリードを営業に引き渡すことで、営業は個別化した商談やデモの提案を行えるようになります。

つまり、セールスファネルとマーケティングファネルは別々に考えるものではなく、1つのファネルとして全体設計をしなければいけません。

BtoB顧客が営業担当に会う前に、情報収集の大半を終わらせる現代においては、質の高いコンテンツ発信の重要性が増しています。長期的にコンテンツ制作できる体制を整えたうえで、マーケティングファネルとセールスファネルを活用するようにしましょう。

(出典:フライホイール)

また、現在は既存顧客の成功に注力し、継続利用率の向上や既存顧客による製品紹介・情報発信で新規リードの創出を目指すのも重要ですが、セールスファネルとマーケティングファネルでは既存顧客には対応できません。

この弱点を克服したのが、HubSpotが提唱する「フライホイール」。フライホイールとは、営業・マーケティング・カスタマーサクセスが連携し、顧客を惹きつけ、喜ばせることで、「あなたのブランドを知らない」から「あなたのブランドが好きだから商品を買う」、そして 「あなたのブランドが好きだから支持をする」と顧客心理の変容を促すファネルです。

従来のファネルは潜在顧客を育てるなど、潜在顧客の顧客化に最もエネルギーを費やしています。しかし、新規顧客の獲得をゴールにすると、既存顧客の対応がおざなりになり、再び潜在顧客の集客からナーチャリングをしなくてはいけません。そして多くの方がご存知の通り、新規顧客数を青天井に伸ばすことはほぼ不可能です。

対してフライホイールの考え方は、獲得した新規顧客に紹介やリピート、アップセル/クロスセルを行ってもらうように注力するということ。既存顧客がさらなる売り上げを創出してくれる循環を作り出すのです。

また、フライホイールの実現にはマーケティング・営業・カスタマーサクセスの円滑な連携が欠かせないため、従来のファネルが持つ「営業とマーケティングの対立」というデメリットの解消にもつながります。現代の顧客行動に適したファネルのため、フライホイールの利用も検討してみてはいかがでしょうか。