デジタルセールスが注目を受けている昨今、インサイドセールスはBtoC/BtoBを問わず多くのビジネスにおいて重要視されるようになりました。日本のビジネスシーンでは、2019年に福田康隆氏の書籍『THE MODEL』の発売がさらにインサイドセールスの普及を後押ししており、外資系企業やスタートアップ企業などで導入が進んでいます。
しかし「THE MODEL型」の営業分業型のアイディアが普及する一方、導入を検討するもののなかなかインサイドセールスセールス組織を自社に適用できていない企業も増えているのではないでしょうか?
本記事ではBtoB企業におけるインサイドセールスの存在意義について、昨今のBtoB企業を取り巻く環境やインサイドセールスに求められる役割などを挙げつつ、詳しく解説していきます。
インサイドセールス組織の採用にお悩みの方や採用を検討している方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
BtoB企業におけるインサイドセールスのあり方を考える上では、BtoBビジネスに対して昨今の世界的なコロナ蔓延や、それによる急激なデジタル技術の発展が与えた影響・変化を知っておくことが大切です。
米McKinsey社の調査によると、BtoBセールスが昨今のデジタル化や世界的なコロナ禍によって受けた影響は凄まじく、その大きな変化のひとつには対面セールスの圧倒的な減少があります。
BtoBビジネスにおける買い手・売り手ともに、その3/4以上が、直接対面のやり取りよりもリモートによる人との関わりを、さらにはデジタル上のセルフサービスを好むと述べています。そして、コロナ禍がある程度収まっている昨今においても、この傾向は弱まるばかりか、むしろ強まっています。
この対面が減少した大きな原因のひとつに、感染予防があったことは否めません。しかし、むしろそれはきっかけに過ぎなかったともいえます。
コロナによってデジタル化が注目され急速に発展・普及を遂げたことで、さまざまな情報の入手や製品の注文、サービスの依頼などがオンライン上で簡単に行えることが一般的になっています。買い手はその速さと利便性を楽しんでおり、感染に対する危機感が薄れてきている今でも以前の対面でのビジネスに戻りたいと考える人は多くありません。
売り手側にとってもその傾向は同じです。製薬業界や医療製品など、従来フィールドセールスモデルが主流だったセクターにおいても、営業員の20%程度しか直接対面の営業スタイルに戻りたいと思っていないと述べています。
(出典:McKinsey)
コロナによる大規模なデジタルシフトにより、ビデオやライブチャットがBtoB顧客とセールスをつなぐ主要なチャネルへと成長したことも、対面会議や訪問などの営業活動が急激に減少した原因のひとつと言えるでしょう。
(出典:McKinsey)
近年のBtoBビジネスにおける変化としてもうひとつ大きいものが、BtoBバイヤーのオンラインにおける購入額が倍増しているということです。
近年デジタルセールスが急発展を遂げているなか、それを最も後押ししているとされているのは、BtoBバイヤーがオンラインで大規模な新規購入や再注文を行うことに対して感じる快適さです。
前項で対面減少について述べた中にもありましたが、リモートでのやり取りやデジタルセルフサービスは従来の対面を主としたやり取りに比べ、より手軽に安価にかつスピーディに進めることができます。そのためこれを一度体験したBtoB企業の多くは、より積極的に自社の取引をデジタルへシフトする必要性が高まっているとも言えます。
また、従来ではeコマースは少額商品や搬送が簡単な製品向けのものとされていましたが、多くの輸送サービスがオンライン購入へと対応してきている昨今では、オンラインで発注が可能となっている製品の種類はどんどん多くなっています。
McKinsey社のリサーチでは、世界的なBtoB企業の意思決定者の70%が、5万ドルを超える新規の完全セルフサービスまたはリモート購入に対して積極的に取り入れたいと述べており、27%はそれに対して50万ドルを超える経費をつぎ込む意向があると答えています。
(出典:McKinsey)
そもそもインサイドセールスとは、どのような特徴があり、どのような役割を求められる部署なのでしょうか?
日本においてのインサイドセールスは、「THE MODEL型」の分業型営業組織の中のひとつのプロセスとして捉えられているのが一般的です。『THE MODEL』は福田康隆氏が著した書籍。福田氏が提唱するのは、米オラクルで見た、日本ではそれまで営業が一括で行っていた営業プロセスを異なる部署で分業して行うというスタイルです。
(出典:『THE MODEL / 福田 康隆』)
大まかに言うと、上図のように営業プロセスは4つに分かれています。
それぞれに専門のスペシャリストを配置するというのがTHE MODEL型と呼ばれる営業分業組織です。
THE MODEL型におけるインサイドセールスの役割のひとつは、マーケティングが創出したリードを引き継ぎ、リードの評価・選別・育成を行なったのち、受注見込みの高いホットリードのみをフィールドセールスに引き継ぐというものです。
(出典: kalungi)
上図は一般的なインサイドセールス部門が営業部門のどこに属するかを示した図です。緑とオレンジの部分が一般的にインサイドセールスの役割とされますが、ご覧の通りフィールドセールスやカスタマーサクセスと同じく営業部門の一部とされることが一般的です。
しかし、企業によっては上流プロセスであるマーケティング部門の中にインサイドセールスがある場合もあります。
THE MODEL型の営業分業組織の中で営業プロセス全体の業務の整合性を取るためには、インサイドセールスは下流のフィールドセールスとの密な連携はもちろん、上流のマーケティングと営業部門全体をつなぐ架け橋の役割も担う必要があります。また、マーケティング部隊とも緊密にコミュニケーションを取り合い、お互いに連携することも必要です。
(画像出典:Hubspot)
マーケティング部門と営業部門との架け橋役が社内での役割だとすると、インサイドセールスの対社外での役割のひとつがインバウンドリードへの対応です。
インバウンドリードへの対応では、「カスタマージャーニー」と呼ばれるリードの購買プロセスに沿った活動が重視されます。
下図はカスタマージャーニーの一例で、リードが自社製品を認知し実際に購入に至るまでを9段階に分けて表しています。
(出典:Photo 143478699 © Vaeenma | Dreamstime.com)
このようなリードの自発的なリサーチや自社への問い合わせに対する対応を通し、最終的に自社のプロダクトを解決策として選んでもらえるよう、リードを誘導していくことがインバウンドリード対応の主な業務となります。
自発的にリサーチや問い合わせをしてくるリードは、すでにある程度の購入意欲を持っているホットリードであることが多く、これらは上流のマーケティング部門による働きに大きく影響されます。そのため、インバウンド対応では、より密接にマーケティング部門と連携をとることが大切となるでしょう。
(画像出典:Hubspot)
インサイドセールスの対社外的な役割のひとつはアウトバウンドのアプローチです。「インサイド ソリューション セールス」と呼ばれることもあるこの業務は、インサイドセールスの業務の中でもより能動的に受注に向けたリードへのコンタクトやアプローチを行います。
アウトバウンド型のインサイドセールスは、オンライン会議ツールやメール、電話、などを活用し、非訪問型で営業を行います。主な業務は営業リストの作成、リストに基づきオンラインツールを活用したアプローチであり、アポイントの獲得を目的に活動を進めます。
ソリューションセールスと呼ばれる営業戦略の6つのステップにおいて、初めと終わりの数ステップはそれぞれマーケティングとフィールドセールスに任せるケースが多いものの、中間のオンラインでできる活動を幅広く行うという点で、より難易度の高いインサイドセールスの型と言えるでしょう。
インサイドセールスはもともと、1950年代に特にアメリカにおいて企業がテレアポやコールセンター業務を専門の部署を設け、営業部門と切り離して運営し始めたことに起源を持ちます。
日本においては、インサイドセールスの普及はよくデジタル技術やデジタルセールスの発展と一緒に語られることが多いのですが、そもそもインターネットが全く普及していない時代からインサイドセールスは、電話などを通じ顧客との対面を求められない環境で発展を遂げてきました。
技術の発展により手法やチャネルに違いはありますが、営業プロセスの中でも特に直接対面を求められない役割に強みを持つ組織であることは、コロナ禍で訪問営業などが制限されたBtoBビジネスにおいてインサイドセールスが注目を集める要因のひとつとなりました。
「デマンドウォーターフォール」とは、米国のSiriusDecision社(現Forrester社)が提唱したBtoBマーケティングに特化したフレームワークです。
下図は数種類あるウォーターフォールの中でも特に普及している「Reachitected waterfall」と呼ばれるモデルです。
(出典:SiriusDecisions)
以下はこのデマンドウォーターフォールを元に説明していきます。
まず、インバウンドで発生したリードはマーケティング部門で評価選別され、有望とされるものが「AQL(Automation Qualified Leads)」とされます。
AQLはリードの質や組織の体制などによって、インサイドセールス部門もしくはフィールドセールス部門へ引き渡されます。
AQLのうち、インサイドセールスが正式に引受を承認したリードは「TAL(Teleprospecting Accepted Leads)」となり、インサイドセールス内で更なる育成(ナーチャリング)・評価(クオリフィケーション)を経て、商談やクロージングが有望とされるもののみがフィールドセールスへ引き渡され「TQL(Teleprospecting Qualified Leads)」へと昇格します。
また、マーケティングから引き継いだリードとは別に、インサイドセールスのアウトバウンド活動の中で新たに創出されたリードに関しても、評価選別のうえ有望とされるものは「TGL(Teleprospecting Generated Leads)」とされ、フィールドセールスへと引き渡されます。
そのためインサイドセールスの主な役割を一言で言うと、マーケティングから引き継いだリード(インバウンド)と自身の活動で創出したリード(アウトバウンド)の「育成」「評価」「選別」です。
どれだけ有望なリードを次工程のフィールドセールスへ引き継げるかが評価のポイントとなります。そのためインサイドセールスのKPI(重要業績評価指数)はしばしば、引き継いだリードの数、アポイント獲得数、アポイント獲得率、受注数や受注率などで評価されます。
THE MODEL型の分業型営業組織におけるフィールドセールスの役割は、一言で言うとマーケティング・インサイドセールスから引き継いだリードの「クロージング(受注)」です。
これをデマンドウォーターフォールに落とし込むと、マーケティング・インサイドセールスから降りてきたリード(AQL、TQL、TGL)のうち、営業が引き受けを承認したリードは「SAL(Sales Accepted Leads)となります。
これに、営業の活動の中で新たに創出されたリードである「SGL」が加えられ、営業活動を通した評価・選別を経て、最終的に営業が「商談・クロージングへと進むべき」と認定した優良なリードのみが「SQL」となります。
このように、フィールドセールス部隊の主な目的は「クロージング(受注)」ではあるのですが、インサイドセールスと同様にリードに対して多くのナーチャリングやクオリフィケーションも必要となります。
実際のところ、インサイドセールス〜フィールドセールス間でどれほど有望なリードをどの時点で引き渡すかというのは、企業の扱う製品や組織体系によって大きく異なります。そもそもそれほど多くのインバウンドが発生しない業界では、インサイドセールスとフィールドセールスの境界線が曖昧もしくはインサイドセールス部門自体が存在しないという企業も多いのが現状でしょう。
ここまでインサイドセールスについて紹介してきましたが、実際に全てのBtoB企業のビジネスにインサイドセールスを設置する必要があるかというと、一概にそうとは言えません。
たとえば、「数あるインバウンドリードを捌く」という意味でのインサイドセールスであれば、エンタープライズ向け営業でインサイドセールスが必須であるとは言い切れません。なぜなら、一般消費者向け(BtoC)ビジネスと違い、BtoBビジネスにおいては数を捌く必要があるほどの対象顧客がそもそも存在しないケースが多いからです。
加えて、マーケティング部門で集客するリード数が少ない場合には、営業担当者でリードの対応ができてしまうため、インサイドセールスによる「精査」が必要ない場合があります。逆に、少ないリードを厳格に「精査」することでフィールドセールスが対応するリードがなくなってしまうなんてこともあるかもしれません。
とはいえ、冒頭で紹介した通りBtoBビジネスのオンライン化・デジタル化は着実に進んでおり、数値にも現れています。一概にインサイドセールスが良い・悪いと判断するのではなく、自社のビジネスでメリットが出せそうか・投資対効果はどうかなどを個別に判断するのが良いでしょう。
2019年に『THE MODEL』の書籍が発売されて以降、日本における「THE MODEL型」の営業分業型組織、およびインサイドセールスの注目度は一気に上がったと言えるでしょう。そこから数年が経ち、日本においてもインサイドセールス組織を設置した企業の成功例がネット上にも出回るようになっています。
また、世界的に見ればさらに前からインサイドセールスを採用している企業も多いですから、自社と境遇が似ている企業の事例などは以前に比べてアクセスがしやすくなっています。
これからインサイドセールス部門の採用を検討しようとしているのであれば、それらをリサーチした上で、本当に自社の業態や組織体制にマッチするのかなど、入念にチェックするのが大切となるでしょう。