しかし、正直KGIやKPIと聞いてうんざりする方もいるのではないでしょうか? KPIがあまりに多すぎたり、そもそも方向性がずれているという現場のクレームをよく耳にします。
現場だけでなくマネジメントの視点からも、「やりすぎKPI」「導入しても経営がうまくいかない」「近視眼的になる」などの弊害が問題視されています。
しかし、KPIは世界で活用されている再現性の高いフレームワークであり、KPI研究の世界的権威The KPI Instituteの調査でも、世界のプロフェッショナルの約7割がKPIの有効性を評価しているように、本来役立つものです。
そこで本記事では、改めてKGI、KPI、KSFの意味や使い方、設定例をわかりやすく解説します。
まず、KGI(ケイジーアイ)、KPI(ケイピーアイ)、KSF(ケイエスエフ)の正確な英語表記と意味は以下のとおり。
それぞれ、「ゴールのキー」「成功のキー」「パフォーマンスのキー」と表現されているように、決め手となるカギです。
KGI、KPI、KSFの関係性は以下の図式で表すことができます。KGIという目標をを達成するために、どのような活動を最重要視するか戦略の方向性を絞り込むのがKSF、そしてKSFにもとづいて各施策のKPIを定めます。
なお、KGIとKPIについては定量的な指標で設定しますが、KSFはKGIを達成するためのカギとなる「成功要因」なので、数値でもフレーズでも問題ありません。
以下に、それぞれの意味を詳しく解説します。
KGI とは、Key Goal Indicator(重要目標達成指標)の略語で、「目標、ゴール」のことを指します。ビジネス社会においては企業全体、部門、チーム、各個人とそれぞれがKGI(目標)を設定します。
例
KPIとは、Key Performance Indicator(重要業績評価指標)の略語です。
KPIは、パフォーマンスを評価する際のカギとなる指標です。「中間目標」「プロセス目標」「中間指標」とも表現されます。ビジネス社会ではKGIという目的達成までは非常に遠い道のりなので、中間チェックのための指標として設定されます。
KPIはKGIの性質によって難易度が異なります。また、どのようにKPIを捉えるかについてもさまざまな設定方法があります。大きくわけると以下の4種類があります。/p>
(参考:qlik.com)
マーケティング業務であれば、企業の経営方針にのっとり戦略的KPIにするか、一般的なオペレーションKPIとなるでしょう。
KPIは、あくまで目標を達成するための中間指標。設定する際はKGIにそった、メンバーが理解しやすいKPIにすることが大切です。
KSFとは「カギとなる成功の要因」です。KGFの種類、難易度によってKSFもさまざまな設定の仕方があります。
ちなみに英会話のサイトでは会話例として以下が紹介されています。
(出典:通訳・翻訳Web)
「資金調達」ではなく「プロジェクトリーダーの能力だよ」「着手のスピードだよ」という場合もあるでしょう。いわば「勝ち筋」「要諦」といった言葉に近い意味です。
例えば、株式会社才流の栗原氏が「コンテンツマーケティングのKSFは、3年以上やりぬく不退転の覚悟」とツイートしていましたが、これはコンテンツマーケティングのKSFとして非常にわかりやすいです。多くの企業が成果を出すまでの期間を知らず、撤退しているからです。
このKSF、設定は簡単ではないと言われます。なぜなら、成功の要因と口で言うのは簡単ですが、「A社成功の秘訣」という本がよく売れるように、後付けであっても変数の多いビジネス界で成功要因を特定することはなかなか困難だからです。
しかし、KSFは大変合理的な考え方。すべてのことにエネルギーを向けるのではなく、もっとも重要な要因を特定してフォーカスしようということです。KSFの定義、解釈はさまざまな学派の説が混在していますが、個人的には戦略を絞り込むということで、パレートの法則に近い捉え方で活用するとよいと考えます。
ここでは、KGI、KPI、KSFを取り入れる意味と効果について解説します。
KGIやKPIの設定が世界中の企業で行われているのは、もちろん有効だからです。2015年に、KPI研究の世界的権威であるThe KPI Instituteは「パフォーマンス改善と重要KPIの実践状況レポート」を発表しました。
対象は、世界中にいる7万人以上で構成される同社のコミュニティメンバー。その中の391名のプロフェッショナルが回答した結果は以下のとおりで、KPIフレームワークの導入後68%がビジネスにプラスの影響があったことを認めています。
KPIを適切に活用すれば、ビジネスのパフォーマンスが向上することは、国、地域によらず共通しています。
(出典:The KPI Institute)
しかし、KGI・KPI設定の効果とは、あくまでKPIを適切に設定すればという前提での話。実は、The KPI Instituteの調査においても、回答者の32%がパフォーマンス測定における最も困難な側面は、自分たちのビジネスに適したKPIを特定することに関係すると回答しています。KPI設定を難しく感じているのもまた世界共通のよう。
そこで、役立つフレームワークがKSFです。外部環境、自社の戦力、リソースをふまえ「このプロジェクトでは、これを重視していく」と決めること。KSFを決めると目標達成への道筋がはっきり見えるメリットがあります。
たしかな戦略のもと設定したKPIを実行できれば、成果につながります。KPIマネジメントは多くの企業がおこなっていますが、以下に2社の事例を紹介します。
スタディサプリは、個人だけでなく全国の高校の4割が利用するSaaS。しかし、当初は導入しても次年度に打ち切られるケースが多いことが課題でした。データ分析した結果、教師が宿題を多く配信している学校の継続率が高いことを発見。
そこで営業担当者の評価のKPIに、売上げだけでなく「導入後のシステムの活用度」を追加したところ、営業担当者のコンサルティング度合いが深まり、継続率が向上。シェアを大きく伸ばしました。
ここでは、マーケティング業務における一般的なKGI、KPI、KSFの設定例を紹介します。
KGIは企業全体のヴィジョンにそった目標です。営業部門と並ぶ収益貢献部門であるマーケティング部門のKGIには、MQL創出数、リード創出数、売上げ貢献率などの定量的な数値目標が設定されることが一般的です。顧客満足度や顧客エンゲージメントなどを設定する場合も、前年度比の数値にするなど定量化することがポイントです。
MQL(マーケティング部門が生み出す適格リード)をKGIとする場合は、営業部の売上げ目標から逆算して設定します。営業部門と折衝して決めたマーケティング部門のMQL設定(KGI)→KSF設定→マーケティング施策ごとのKPI、というように構造化していきます。
KSFは、いわば自社の戦略の肝は何かを明確にすることなので、以下の観点から多角的に考えて決めます。そのためKSFはそれなりのポジション、知見のある人が設定する必要があります。
(参考:hbr.org)
導き出すフレームワークとしてSWOT、PEST、3C分析、USPなどの活用がよく推奨されています。要は、外部環境、リソース、競合の動きを見て、自分たちの強みを最大限生かす領域を絞り込んだ上で、マーケティング施策をたてるということです。
SaaS業界のマーケティング業務であればKSF設定の難易度は高くなく、よくあるパターンとしては以下があります。
その他の例。自社の弱みにフォーカスすることも、業界の激変に対応するところにフォーカスするのもありです。
KPIは構造化することがポイントです。例えば、KGIをMQL(マーケティングリードの創出数)とした場合、まず以下のようにWebとWeb外、各チャネル別のKPIを設定します。
さらにKPIを以下のようにブレイクダウン。
リード獲得というKPIは、トラフィック、クリック率(CTR)、コンバージョンレート(CVR)という2次KPIに、さらに、コンテンツ制作数、セミナー開催数、事例制作数などに分解できます。
これは、リード獲得数というKPIは、マーケティング指標として大きすぎて、現場担当者によっては具体的に何をするかイメージしづらいためです。何次KPIであっても構造化されていれば、その指標はKGIに紐づいているので有効なので、担当者の習熟度にあわせて設定できます。
このように、大筋のながれとしては、KGI→KSF→KPI設定です。中にはKSF なしでも勘所を押さえたKPIを設定できる人材もいますが、どちらかと言えば「戦略が苦手」と言われるのが日本人気質。KGIの次にKSFを考えるステップをいれたほうが有効なKPI設定ができるでしょう。
組織はひとつの生き物のように、ある目的に向かって動くことが理想的です。
しかし、現実には部門ごとのセクショナリズムは起こりやすく、同じ部門内でもビジネスプロセスは可視化されているとはいいがたく、営業部門のように実績がわかりやすい部署を覗くと、大人数が足並みをそろえるのは難しいことです。
KGI、KSF、KPI設定には、組織で各メンバーが共通目標であるKGI 達成のために、いつまでに何をすればよいか明確に表せるメリットがあります。
KGI=売上げ拡大、収益向上という設定は同じでも、そこにいたる道程はさまざま。今の自社の勝ち筋は何かを絞り込み(KSFを設定)、KPIを設定することが重要です。
KGI、KSF、KPIは、最初は少し難しく感じるかもしれませんが、しっかりと理解することで、組織の業績向上につながる重要なツールとして活用できます。